主な研究テーマ
木材細胞壁の微細構造と機能
広葉樹材の組織や細胞壁の微細構造・機能については、不明の点が多い。この問題について知見を得るため、とくに壁孔という細胞間の連絡路の微細構造を電子顕微鏡的に解明するとともに、その微細構造物が生きた立木の内部において、どのように水分通導を制御したり、水食い材形成などの一旦脱水された組織で起こる再湿現象に関与しているのかを解析している。
走査電子顕微鏡で見た木材組織
樹皮の構造と形成の解明
樹皮は、樹体の最外層に位置する組織で、外部環境からの保護を担う外樹皮と、葉で合成された栄養分の輸送と貯蔵を担う内樹皮に大きく分かれる。これらの組織は、二次成長による木部の肥大に対応しつつ、二次的に構造を変化させながらその機能を維持している。しかし、木部とは大きく異なるその複雑な構造から、樹皮の組織構造や形成過程についてはほとんど調べられていない。そこで、光学顕微鏡や電子顕微鏡などの各種顕微鏡を用いて、樹種による樹皮組織の構造の多様性や、内樹皮と外樹皮の形成および二次的な構造変化について解明している。
アカエゾマツの樹皮
木材の樹種識別
北大札幌キャンパスには先史時代の遺跡が数多く埋まっており、ときに木製品が出土することがある。北海道地区の先史時代における木材利用の実相を解明するため、こうした遺跡出土材の樹種識別を行っている。また、一般に解剖学的性質に基づく木材の樹種識別は属レベルが限界と言われていたが、最近では属よりも小さい分類単位で識別が可能な事例が報告されるようになっている。そうした識別方法の開発を目的とした解剖学的研究も進めている。
札幌市K39遺跡(北大構内)竪穴住居址より出土した炭化材(佐野と渡邊 2003)
樹木の耐寒性・凍結抵抗性
多年生である樹木は、秋から冬にかけて低温馴化する過程において、形態的、生理的に様々な変化を起こすことによって凍結抵抗性を向上し、厳冬期の凍結に適応する。しかも、越冬する樹木の凍結に対する適応機構は器官・組織によって異なっている。細胞外凍結(師部や形成層、常緑葉)や深過冷却(木部)、器官外凍結(越冬芽)におけるそれぞれの特徴的な凍結適応機構の分子メカニズムを組織構造学的、生理・生化学的、分子生物学的なアプローチで解析している。
カラマツ冬芽の『器官外凍結』
樹木における水の凍結制御機構
氷核細菌やヨウ化銀などの氷核物質のように凍結を促す物質が存在する一方で、深過冷却する樹木の木部柔細胞には水の凍結を妨げる(すなわち過冷却を促進する)物質が存在する。水の凍結を制御するには、凍結誘導(氷核形成)と凍結防止(過冷却促進)の双方による調節が重要である。樹木木部から単離・同定した過冷却促進物質の構造・機能評価を通じて樹木の水の凍結制御機構の解析を試みつつ、植物の凍結保存など、応用・活用の可能性についても検証している。
樹木遺伝資源の保存
遺伝資源を保存するため、樹木組織を液体窒素下で保存する方法(超低温保存法)や種子の乾燥耐性機構に関する研究も行っている。